月刊『日本橋』2015年2月号 No.430
【今月の特集】今だから伝えたい—
昔の、町のはなし 其の四
ほうぼうで再開発が進む日本橋。町の姿は刻々と変わってゆくが、昔の町の面影を聞き、書き残したい—。過去三回にわたって特集したシリーズ企画。第四弾となる今回は、前回の日本橋一之部・ニ之部につづき、日本橋三之部・四之部の連合町会長のお二人が語る、日本橋の思い出と町の将来について。
右:岩田宏さん(日本橋四之部連合町会長)
昭和19年、日本橋横山町生まれ。戦後から続く横山町の衣料品問屋〈株式会社富士商会〉社長。横山町町会長も務める。
左:中野耕佑さん(日本橋三之部連合町会長)
昭和6年、日本橋小網町生まれ。明治20年代創業、主に備長炭を扱う〈中野燃料〉の三代目。小網町町会長を26年以上務める。
●日本橋連合町会とは〜
日本橋には一之部〜七之部の連合町会があり、今回ご登場いただくお二人の連合町会は、三之部は人形町、蛎殻町、箱崎町、小網町を、四之部は馬喰町、横山町、東日本橋を範囲とする。(町の一部が範囲の場合もあります)
■幼少期、町の思い出
(編集部)—まずは幼い頃の思い出を。岩田さんの生家は、日本橋横山町の主に肌着を扱う衣料品問屋〈株式会社富士商会〉ですね。
岩田 私は昭和19年(1944)生まれで、中央区立久松小学校、久松中学校、上野高等学校から早稲田大学卒業まで、横山町の実家で育ちました。一番古い町の記憶は、戦後ですから町は焼け野原で、何も無かった。家から久松小学校がよく見えました。久松小は、近隣に葭町や柳橋の花柳界があるので、児童には芸妓さんのお子さんも多く、不思議と女の子が多かった。お父様は優秀、お母様は美人の遺伝子だから、皆べっぴんさんで勉強ができる子でしたね(笑)。
生家ですが、うちは戦後に現在地で商売を始めたんです。父は鎌倉は腰越の漁師の子供で、兄弟が多く貧乏をしていたので、尋常高等小学校を出ると伝手を頼って、横山町の森田商会へ奉公に出されました。現金問屋の元祖といわれ、天狗印で有名なメリヤス問屋です。じきに戦況が悪化し……(続きは本誌で!)
〈特集目次〉
・幼少期、町の思い出
・〜コラム〜横山町の由来
・戦争の記憶
・〜コラム〜小網町の由来
・商売の波
・変化する町並みと人
・〜コラム〜小網町の明星稲荷神社
・〜コラム〜神田明神 遷座400年
・連合町会長として
【今月の表紙】一勇斎国芳 浅草奥山道外けんざけ
嘉永四年(1851)
【2月号連載】人物語
葛西臨海水族園園長 田畑直樹さん
地球の縮図、動物園・水族園の楽しみ方
平成元年(1989)にオープンした葛西臨海水族園。開園25周年にあたる昨年4月、園長に田畑直樹さんが就任した。福井県出身で自然に囲まれて育った田畑園長は、大の生き物好き。北海道大学理学部の卒業論文では、昆虫の〝蟻〟を研究した。卒業後は、東京都に就職し、井の頭自然文化園、上野動物園、大島公園動物園、葛西臨海水族園、多摩動物公園に勤務。管理職になる前は、動物の飼育を担当してきた。「ゾウや霊長類は、信頼関係がとても重要。飼育員も含めて仲間を順位付けするので、順位を無視した飼育をすると大変危険です」。一方で、両生爬虫類のように表情がなく、動きが緩慢で病気になっても判断しにくい動物も飼育が難しい。(続きは本誌で!)
★3月25日(水)、日本橋倶楽部一般公開講演会に田畑直樹さんが登場。動物園、水族園の歴史について講演予定。
入場料/500円(定員50名先着順、要予約) 予約/3270-6661
【2月号連載】日本橋食べもの歌留多 第23回 向笠千恵子
最近は空港ビルの売店が充実し、ソラマエの買物が楽しい。羽田第二旅客ターミナルならリムジンバス停車所のすぐ近くに「日本橋」が待っている。千疋屋総本店のブースがあって、旬の果物たっぷりのスイーツが並んでいるのだ。わたしはお土産用に購入するほか、自分用にも一つといわず二つ、三つ買って、機内でソラフルーツとしゃれ込む。千疋屋製は果物のクオリティが高いし、盛り付けが垢抜けているので一日のスタートダッシュの甘味には最高だ。
それにしても、天下の千疋屋総本店が羽田空港にも出店しているとは便利だ。すでに東京駅銘品館、新宿伊勢丹などにもあるし、お膝元の日本橋には髙島屋内にフルーツパーラーを設けている。憧れの店がどんどん身近になって、喝采しているファンが多いことだろう。
「そうならうれしいですね。父の後を継いだ平成十年は、バブル崩壊と平成不況を経て経済が停滞していたときです。うちは高級果物専門店というイメージはあっても、顧客の年齢層が比較的高いため、次世代向けの新ブランドづくりが火急の課題でした」
それでパティスリー部門に進出し、新たな店舗展開やネット販売も始めたのだ。果物が水菓子と呼ばれていた江戸時代から、「果物がある食卓」を提案してきた老舗らしい戦略だ。
千疋屋総本店六代目社長・大島博さん。おだやかでゆったりした雰囲気と語り口はイギリス貴族を思わせる。(続きは本誌で!)
むかさ・ちえこ●日本橋出身。慶應義塾大学文学部卒業。本物の味、安心できる食べもの、伝統食品づくりの現場を知る第一人者。著書に『日本の朝ごはん』『日本の食材おいしい旅』『食の街道を行く』『食べる俳句 旬の菜事記』など。最新著は『日本のごちそう すき焼き』(平凡社)。現在、NHKラジオ「ラジオ深夜便・大人の旅ガイド」に出演中。
【2月号連載】逸品 とらや 最中〈御代の春 紅・白、弥栄〉
〈夜の梅〉〈おもかげ〉〈残月〉など、とらやの菓銘は、どれも優雅で奥ゆかしい。こうした銘の工夫は、1600年代後半頃から広まり、菓子の姿かたちも、それにふさわしい意匠を凝らすようになった。目で楽しみ、耳で聞き、素材のほのかな香り、感触、舌ざわりを楽しめば、口の中にはまろやかなおいしさが広がる—。まさに和菓子は、五感で味わう食の芸術だ。
最中もまた、優美な名前を持つ。写真左から時計回りに桜と梅をかたどった〈御代の春(紅・白)〉と、菊の形は〈弥栄〉。御代の春とは、今の穏やかな時代がいつまでも続くようにとの思いが込められ、そして弥栄は、“いよいよ栄えに栄える”という意味を持つ、どちらもめでたい菓銘だ。(続きは本誌で!)
【とらや 日本橋店】
日本橋1-2-6 電話3271‐8856
平日9時〜19時 土曜・祝日9時〜18時 日曜元日休
《写真》最中〈御代の春 紅・白、弥栄〉各195円