月刊『日本橋』2015年1月号 No.429
今月の特集 日本橋の名建築コレクション
国指定重要文化財 三井本館
日本橋のクラシカルな街並みを特徴づける〈三井本館〉。
国指定重要文化財に指定されるほどの歴史的・建築的価値の高さに加えて、現役の銀行として昭和4年の竣工から機能し続けていることもその魅力の一つだろう。
三井本館で営業を続ける三井住友信託銀行日本橋営業部90周年を記念して、壮麗なる三井本館の魅力を味わってみよう。
〈特集もくじ〉
●三井本館のはじまり
〜「東京の復興について三井が其範を示す」〜
●三井本館の意匠
〜「壮麗・品位・簡素」 團琢磨の標語が反映された意匠〜
●コラム〜三井本館を形づくる石ー稲田石
●歴史の証人としての三井本館
〜血盟団事件、太平洋戦争、供出ダイヤ〜
●三井グループ歴代建築物
〜三井本館の竣工以前にも、江戸時代より続く三井グループには時代ごとに世の話題となった名建築物が存在した。その一部を紹介〜
●まだまだこんなに! 日本橋の重要文化財
〜日本橋といえば、やはりここ! 日本橋/百貨店建築の代表格、髙島屋 東京店/昭和初期の先端技術を駆使した橋梁美、清洲橋/他〜
●金融機関建築散策
〜金融のまちとしても栄えてきた日本橋には、歴史的な建築物で営業を続ける金融機関がたくさん。まちでみつけた名建築を紹介!〜
〈ぜひ本誌を手に取ってご覧ください!〉
【今月の表紙】一勇斎国芳 七福神 大江山見立 文久元年(1861)
【1月号連載】人物語250 勝井三雄さん
日本橋、粋……それがすべての出発点
日本を代表するグラフィックデザイナー・勝井三雄さんは、手に一冊の本を携えていた。哲学者・九鬼周造の著書『粋の構造』。この本に唯一記された図解は、直方体の八つの頂点に地味:派手、上品:下品、渋味:甘味、意気(粋):野暮とそれぞれ対比する言葉を置き、〈粋〉という抽象的な概念の構造を示したダイヤグラムだ。この図こそ、勝井さんとデザインの初めての出会いだった。「当時高校生だった僕にも江戸の美意識を微かに汲み取ることができたし、言葉では伝えきれないイメージを補う〝デザインの力〟を知ったんです」。
東京教育大学(現・筑波大学)でデザインや写真を学んだ後は、1956年に味の素株式会社に就職し広告全般を手がけ、61年に勝井デザイン事務所設立。独立する30歳の時まで、日本橋本石町の実家で暮らした。「生家は薬の卸問屋で、常盤小学校の同級生には魚河岸関係の息子も多く、そう、はんぺんの神茂の先代も。彼も僕も双子で、同窓に双子が二組いたんだ(笑)。大学生の時には、亀とみのお嬢さん(室町砂場の女将・村松洋子さん)の家庭教師もしたな……」と懐かしむ。「生まれたところはその人のアイデンティティの起源。日本橋はいつでも僕の出発点です——」。現在、84歳。「刺激に貪欲でいること」が元気の秘訣と話す。
【1月号連載】どうなってるの? 江戸のこと日本橋のこと
最強の蒙古軍
両人 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。平成二七年一月、地球規模で言えば2015年のお正月、日本の開闢(かいびゃく)以来の年数で言えば乙未(きのとひつじ)(五行説の「木性の弟分」のこと)の順で、「ヒツジ」が当年のに収まることが決まっている年です。
M・シェレンバウム(以下M)「ヒツジ」と言えば大相撲じゃないけれど、大蒙古がその本場。
花子(以下花)蒙古が世界を征服し、その王朝が属国高麗王国とともに十三世紀から四代(太祖—太宗—元順宗)、二回も日本へ「元寇」つまり日本を侵攻したと、中学校で習いました。相撲と違って、二回とも日本が勝利を収めていますが。
M「元寇」した「力」があったのは、「ヒツジ経済」によったからだと言われています。焼肉のジンギスカン鍋とは違いますよ。
花 ははぁ……確かにヒツジは、食肉としての価値はもちろん、毛はウール製品になるし、乳や毛皮も利用できる。大きな原資になりますね。
M 第一に、日本のようにひっきりなしの「緊急災害速報」に心配する必要もありませんし……。
花 話は横道にそれますが、今ではすっかり日常に溶け込んだ「緊急地震速報」を、気象庁が一般に提供するようになったのが二〇〇七年十月一日でした。早速、その年の十月号で話題にしましたね。
M 当時の当局の説明では「震源近くで地震の初期微動をとらえ、強い揺れが来る前に情報を伝える仕組み」だということでした。当年の八月中から、テレビで相当細かく周知徹底させる番組を流していました。
花 直近で起った柏崎市地震の場合を例にとって、解説がされていましたね。それによると、震源地に近い長岡では初期微動の時間はゼロ、はるかに遠い東京では初期微動の始まりから、震度3の地震が始まるまで5秒。長野でも震度3、到達時間は20何秒ということでした。当たり前のことですが、震源地に近いと「予告的」な時間が短く「緊急地震速報」の効果があまり期待できない……なんて話をしました。
M それでも、ある程度の予知ができるようになったわけで、その点は大いに期待できると締めくくりました。さて、話を元に戻しましょう。「緊急災害速報」の心配がないのに加え、漢民族側からの「万里の長城」の建設も効果がありました。それは農耕社会VS砂漠社会の攻防だからこそ、正確・迅速な「緊急情報」が必要だったと言えます。
花 なるほど。情報はタダではありませんものね。
M ヒツジは従順・温和の象徴のように容認されることが多いのですが、かのジンギスカンをはじめ、日本の大相撲の首座を占めている蒙古出身のヒーロー達の本質はその限りではないと実感することのほうが多いと思います。
花 むしろ「鋭さ」を感じます。司馬遼太郎の初期の作品に、蒙古軍の「強靭さ」の描写された短編がいくつかありますが、それを思い出しました。
M だいぶ前に、奈良でシルクロード博覧会があった時、いろいろなヒツジに関する体験コーナーがありました。例えば蒙乳、これは実質的にはヨーグルトですが……昔の記憶がオボロになって浮かび上がってきました。
花 パオ=(遊牧民族特有の移動可能の家屋)の生活も魅力的だったりして……。異文化の差をあげつらうよりも、共通点を確認する「目」を養うことのほうが大事なことのようですね……(続きは本誌で!)